<特別企画>介護保険は日本を救うか??


(1)第一話「長寿を喜べない社会」
(1999/11/8記)

ったく、やな時代になりつつありますね。ついさっき、TVのニュースで、介
護に疲れたと60歳の息子が88歳の母親を殺したと報道されていました。まった
く哀しくなって来るような事件ではありませんか。

普通なら88歳と言うと「米寿」です。多くの親戚が寄り集まって祝うべき長寿
です。だけど、脳卒中などを繰り返し、命だけは長らえていて全面介護が必要
になった状態でも米寿は米寿。こんな患者さんが、安心して人生の終焉を過ご
せる場所が今の日本にはなくなって来ています。

おそらくですが、この親子の場合、母親が病院や老健施設で過ごせる期間が過
ぎてしまい、息子さんがいるからということで在宅の方向になったものの、そ
の介護を助ける人もシステムも巧く働かず、結局息子さんに全ての負担が押し
寄せてしまい、息子さんが疲れてしまったのではないでしょうか。具体的な生
活を支えて支援できるシステムがなかったのだろうかと、同じような患者さん
を多く抱えている我々としてはかなり身につまされて考えてしまいました。

実は今日のお昼ごろ、診療所にもそういった相談が一件ありました。脳梗塞で
右半身がほぼ全麻痺、言語障害もありしかも高齢(83歳)なため、リハビリも
あまり進められず今の病院に追い出されかかっているがどうかならないかとい
うわけです。しかし、よくよく聞いてみると、このご家族の事情では、どこま
でリハビリを続けても絶対に子供さんのいづれかが引き取っての在宅というこ
とにはならないとの由。これでちょっと問題が微妙になって来ました。

たしかに医学的には集中して3−6ヵ月リハビリをすることで、ベッド回りで
の日常生活動作は自立するくらいにはなるかも知れませんが、それとてかなり
な介護を要する状況には変わりはありません。在宅での介護状況がいい人であ
ればいいのですが、6ヵ月後に結局老人病院(療養型病床)に入ることしか選
択肢がないのであれば、中途半端にリハビリを進めておくとかえって患者さん
自身には不幸なことになる(動きすぎて骨折する、動くためベッドに拘束され
る、etc...)可能性が高いと思われるのです。それこそ、老人病院での医療内
容がもっと充実していれば、あるいは在宅介護支援システムがもっと完備して
いれば回避できる不幸なのにと思わざるをえません。

そういう可能性も含めて娘さんに説明させていただいた結果、あらためて考え
てみるとの由で今日は娘さん、帰られました。でも、こんな辛い説明をしなく
てはならない今の社会、まったく長寿を喜べない社会の実態に直面して、気分
がユーウツになってしまいました。そして、自分の両親がこんな事態になった
ら自分はどうしたらよいのだろうと、本当にそのあたりが不安になってしまい
ました。

ホント、いやな社会になりましたな・・・

(第2話)大阪市の対応はなんじゃい!(1999/11/18記)

来春から始まる介護保険関連では、各自治体に詳細がまかされた形であるため、
各地でいろんな混乱が起こっているようです。しかし、保険料だとか介護の実
際を担当する施設の不備などはともかく、とりあえずすでに「事前申請」は開
始されているわけですから、申請した患者や家族には少なくともその混乱のし
わ寄せをしてほしくないと思います。というのも、実は今日の外来でこんなエ
ピソードがあったからです。

私の外来にずいぶん前から月に一度通院されているKさんは、住民票こそ亡く
なったご主人と暮らされていた東淀川区に残っているのですが、通常は姫島の
娘さんのお宅に棲んでいます。デイケアにも通所されているので介護保険の申
請が必要なのですが、当然区外だからということで西淀川区の区役所ではなく
東淀川区の区役所に家人が問い合わせたらしいのですが、区役所からはすぐに
申請に来るのではなく話があるので何日に来なさいという指示があったという
ことで、先日その娘さんが行かれたそうです。すると、区外の場合は申請され
ても今は受理できない、急ぐならデイケアに行っている老健に入所してそちら
で書いてもらえばどうか、などとムタイな事を言われたと言うのです。

なんか腑に落ちないなと思ったので、病院の医療福祉課に電話をしてMSWに
尋ねてみると、なんと大阪市の場合、区外患者の扱いがきちんと決まっていな
いので来年になるまで申請を受けても審査が始まらないというのですね。だか
ら当然訪問調査依頼も意見書依頼も出せないらしい。ただMSWが言うには、
申請自体は本来は受け付けてくれるはず、でも審査されないから別に慌てる必
要もないだろうということでした。

まぁそこまで説明されれば家人も納得されるでしょうけど、申請自体受けられ
ないなんて言い放ったら当然家人としては不安のどん底になっちゃいますよね。
お役人の常とは言え、もうちょっと人の立場にたったものの言い方ができんの
かとまずは思いました。しかし、問題はむしろそんなことではなく、天下の大
阪市がなんでたかだか同じ市内の区が違うだけの申請に関してそんなに混乱せ
ねばならんのかと言うことです。

実はこの間、豊中診療所の私宛には、となりの池田市はもとより、遠く栃木県
の鹿沼市からさえ意見書依頼が来ています(あのコミック「風の大地」の舞台
になった鹿沼ですね(^^))。依頼書の期日がとおに過ぎていたので事務長に問
い合わせてもらったら、大阪なんて遠い人はたった一人だけどやはり自らの市
が責任を負うからと、急遽対策を協議してとりあえず意見書依頼を送ったとの
由。そのうちに出張して来て最終的な審査にまでもって行くと言っています。
なんと誠実な態度なのだろうと少し感動してしまいました。それに比べて大阪
市の冷たいこと・・・もう少し自治体が住民の身になって仕事をしてくれれば
簡単に進むことなのではないかと強く感じました。

やはりこのたびの市長選挙、ちゃんとすべての住民の立場に立ち、思いをかな
えてくれる人を選ばねばなりませんね・・・


(第3話)究極のお役所仕事(1999/12/23記)

昨日はさすがに年末で、19時半から始まる常務理事会はなし。ただいろいろ検
討事項はあったので管理部会議を19時過ぎまで施行。終了後、6冊ほどたまっ
た介護保険の意見書のうち、12月22日締め切りのヤツの清書と29日締め切りの
分の下書き(どれも
「ご意見」でやってるのです)をしあげて、残り
2冊は期限が1月だったもので来週に回して帰ろうと思っていました。その4冊を
なんとか仕上げたのが20時過ぎでしたのでもう結構疲れて来てたのですが、
さぁ終ったと思ってふと残りの2冊の提出期限を眺めてびっくり(+_+)。期限は
なんと
「1月4日」
ではないですか(*_*)。

うちの診療所は年末29日までやりますが、新年は5日から。私は4日には病院の
日直ですが診療所には5日からしか行きませんし、第一お役所の方も28日が仕
事収めで初仕事も4日からのハズ。自分ところは曲がりなりにも(どのくらい
仕事をするのか知りませんけど)4日からだから期限を4日なんて書いたのだろ
うけど、これあんまりです。正月休みと言うものを全く無視して、依頼から2
週間と言う決まりだけでつけた期限ですよね。でもこちらにしたら、事実上の
期限は28日になってしまうわけですから、実質1週間になってしまうのです・・・

まったく、他人の事を全く考えないお役所仕事の最たるもんだとブツブツ言い
ながら仕方なく始めました。清書なら時間かかりませんが、予定になかったこ
の二人の分は看護婦や訪問調査の資料もなく、エエかげん時間がかかりました
です。なもんで帰宅して風呂はいったらあと何もできず爆睡してしまいました・・・

やれやれ、今後もこんな事続くのかなぁ・・・

(上記「ご意見」をクリックしていただくと、私の使用している意見書作成支援ソフト
「ご意見ver3」が紹介されている徳島県阿波郡医師会のホームページへ飛べます。)



(第4話)ソフト屋さんも苦労している(2000/3/17記)

泣いても笑っても4月から始まる介護保険制度。しかし、その運用実態はまだ
未定の部分があったり、直前だというのに変更される部分があったりで、ケア
マネをしているうちの診療所の看護婦も結構大変そうです。そして、これをビ
ジネスチャンスにと多くの業者が新しい商売を始めていますが、その業者さん
たちも大騒ぎしているようです。

その筆頭は、ケアマネさんたちが日常業務で使用するパソコンソフトの請負業
者さん。実は今月の初めにはきちんと使える形で納入してもらえる筈だったの
ですが、つい先だっての直前の計算方法変更でまた手直しが必要となり、今日
ようやく納めに来てくれたというのです。ところが私がちょうど夜診を終えた
頃に彼女から電話が入りました。なんだか慌てています。

「先生、さっき業者さんがノートパソコンになんかさんざん苦労してソフト入
 れていかはったんですけど、その後終わろうとしたらなんか画面が固まって
 しもて・・・マウスカーソルしか動きませんねん・・・」

彼女が使用しているのはフロンティア神代のノートPCですが、状況を聞くと
Windows98の終了時のシステムフリーズの様です。おそらく高速終了設定にな
っていたのでしょうけど、それがソフトのインストールでなんらかのシステム
ファイルを触ってしまって終われなくなってしまったのだろうかと思われまし
た。

マシンの方はCtrl+Alt+Delで再起動してみたらすぐに立ち上がったらしいです
けど、なんだかBIOS設定が初期化されてしまってるみたいです。いったい何を
したんだか。それにしても、作った業者自身が入れるのに「ひどく苦労してい
た」というには、いったいどんなソフトになったのだろうかとあらためて考え
てしまいました。

まったく、いろんなところで問題が起きますね>介護保険・・・


(第5話)高額返戻の裏側 (2000/6/21記)

返戻(へんれい)とは、医療関係の方々ならよくご存知と思いますが、医療機
関が支払い基金に提出した診療報酬明細書(レセプト)になんらかの不備があ
った場合に、お金を支払わないとは言わないがとりあえず不備を直して再提出
するまで支払いを止めると言うものです。書類が不備なのではやむを得ないで
すけど、そうでなくても誤解や基金側のミスで返戻されることも結構あるもの
です。

ところが昨日診療所の事務長から、今月初めて請求業務を行った介護保険関連
のレセプト請求の実に9割近くの150万円ものが返戻されて来たと報告がありま
した。まともに支払い通知があったのはデイケアの数件のみで、ケアプラン作
成料はどう言うわけか判らんけれど全額返戻されて来たとの由。なんぼなんで
もちょっとおかしいですよね。

この対策に、今日は朝早くから事務長が関係部署に直談判に行っていたのです
が、午後に帰って来たところを聞くとなんでも150万の9割にあたる135万円が
ちゃんと支払われることになったと言うのです。どうやら支払い基金の方でも
業務ソフトがきちんと稼働していなくて入力に不備があったり、中身が間違っ
ていたりしていたと言うことでした。ソフトに問題があってなかなか業務が進
まないのは末端医療機関だけではなかったのですね。

しかし、うちの診療所でもこの135万あるとないとでは5月の収支に大きく影響
します。ましてや零細の専門業者などではこんなことされたら死活問題で即倒
産なんてところもあったことでしょう。介護保険の見切り発車の影響、まだま
だあるようですねぇ・・



(第6話)破綻は誰のせい?(2001/10/12)

今日は診療所(医療生協)の定例常務理事会で夕方からついさっきまで頭の痛
くなるような会議を(*_*;;)してきたのですが、その最後の議題として「介護
関連ソフトの扱いについて」などというものが上がっていたので何かと思って
いたら、うちの診療所をはじめ大阪民医連の院所の8割が採用しているソフト
の開発会社であるNシステムが9月末で倒産したというのですね。なんとまぁ。

なんでも社長は雲隠れしてしまって残された社員(5名)は7月から無給だっ
たといい、9月で退職となって現在は失業保険をもらっているそうです。ソフ
トの販売を担当していた会社(これも社員5名と決して大きくないそうですが)
が当面の後始末とサポートを引き継いでいくそうで、介護保険の変化に関して
は12月末までに旧社員が責任をもってソフト開発で対応していくという悲壮な
決意を今日の説明会でされていたそうです。

専用ソフトですから保守契約などもしていますし、なんで経営破綻が?と思っ
たのですが、その経過を聞いておおよそ納得できました。その根源はやはり介
護保険制度と国の対応にあったようです。というのも、介護保険制度が走りは
じめてしばらくは、ころころと細かいところが変更され、その都度ソフトも細
かいサポートを要求されたわけですが、それがすべて「ソフトが完成前の対応」
ということで保守契約上もすべて無償のサポートになったのだそうで。だから
5人しかいない社員が一方で開発に追われながら、他方では全く見返りのない
サポート作業に忙殺されていたわけで、その間にどんどん累積赤字ができてい
ったというわけで・・・

一生懸命頑張っても報われず、国の制度に降り回されて泥沼に落ち込んでいく
という図式はなんかヒトゴトでない気がして、とても残った社員の人を責める
気持ちにはなりませんでした。ほんとに介護保険は罪作りな制度ですねぇ・・・



(第7話)介護保険時代の在宅の条件とは・・・(2003/07/12)

実は今日は、今月の「My Opinion」として今一番話題の「中学生の犯罪」につ
いての論評を書くつもりだったのですけど、少し考えがまとまりかけたところ
でまた別の意見を聞いて、少し自分の考えが不安定になってしまったのでもう
少し考えてから書くことにしました。そこで、昨日とある方からの往診依頼を
受けて考えたことを今日は話題にしたいと思います。

患者さんはとある場所の悪性腫瘍でいまだ市立豊中病院に入院されておられる
との由。食思が低下し、腕から24時間の持続点滴をしているというのに、市
立病院からはベッド事情から転院を勧められて(というよりほぼ強要されて)
いるといいます。しかし、どうせ末期の状態を過ごすのなら娘さんの家に引き
取って少しでも家族との時間を増やしたいが、そうしたら往診してもらえるだ
ろうか、というご相談でした。

うちの診療所から往診できるかどうかについてはいくつかの問題がありました。
一つは私が豊中に在住していない以上、24時間いつでも急変に対応できる、
というわけにはいかないということ。これは理解を得て納得していただきまし
た。しかしもう一つの問題の方が大きい。つまり自宅での24時間持続点滴と
いうのは、抜けたり漏れたりすることが多く対応に大きなエネルギーが必要で
あるということです。すでに亡くなりましたが、今年の春まで一人そのような
方を抱えて、当方、ご家族ともに非常に大変な毎日だった、という経験があっ
たのです。

ただ、そのご相談の中で、本当に帰宅してその点滴が必要なのかどうか、を確
認する必要があると思いました。現在、食思は落ちているものの、エンシュア
リキッドという栄養剤は飲める状態だとの由。自分が病棟を担当していたとき
の思いにもあったのですけど、今の入院医療というのはどうも過剰に輸液など
をしすぎるきらいがあるように思っていました。悪性腫瘍の末期で低蛋白にも
なり、体力も落ちている人に多くの水分を入れることでかえってむくみを来し、
あるいは心不全を起こしてしまっているのではないかという思いです。輸液を
しづらい在宅に移行するにあたっては、むしろ少しでも経口で摂取することに
して輸液は最低限にする。もちろん末期ですからそれで悪くなることもあるで
しょうが、それは家人も承知の上で、ということでどうでしょうかという私の
提案に家人は理解を示してくれました。

この方針を元に病院で退院に向けて主治医と話し合いをしていただくというこ
とで家人にはお帰りいただいたのですが、むしろこの方向の方が家人としても
前向きに検討できる内容だったようです。介護保険時代となり、長期の入院は
できなくなっているという現状では、より在宅へ移行しやすい条件を整えると
いう意味ではこれまでの医療の常識的なものも変えていく必要があるのではな
いかと強く感じたエピソードでした・・・