診療こぼれ話(診療所編3)

<第13話>新しい外来

今日からいよいよ豊中診での4単位目の午前診を開始しました。地震のあった
95年に水曜日週1回から始まった診療所勤務も、その後火曜日、月曜日と増
えて、また火曜日の往診時間も徐々に増えてはきていたのですが、その後要望
はされるもののなかなか午前診の単位を増やす事ができないでいました。しか
し今回、ステーションの人員危機で主任が支援に出たのをきっかけに、診療所
医療強化の一策として病院との協議の末実現したものです。

これまで週前半しか午前診を担当しないので、前半に診せていただいた風邪な
どの患者さんがその週のうちにどのように変わるかと言う事をきちんとフォ
ローしづらかったのですが、それが叶うのが実は一番自分に取っては有意義な
事だと感じています。特にそれが有意義だと思うのは小児の患者さんです。小
児科だとやはり1週間分も投薬するわけにはいかないので3−4日分になりま
すが、そうなると週後半に薬の追加や病状の変化に基づいた薬剤変更が必要に
なるわけで、それを自分でフォローできるというのはやはり嬉しいことです。

というわけで大きな期待とともに始めた新外来ですけど、さすがに幕開けの今
日はまだ宣伝が行き届かずにさほど多い患者数にはならず、40人弱で終わり
ました。でも、口コミで今日から金曜日も所長がいるらしいと聞きつけたと、
駆けつけてくださった患者さんも数名ありました。誠にありがたい事です(;_;)。

今月末になって進学で休職していたS看護婦が戻って来たら金曜日にも1−2
件の往診もこなせます。せっかくのチャンスですから十二分に活かしていきた
いと思います・・・

<第14話>嫌われたかなぁ

4歳のYちゃんは最近診療所にしばしば来られるようになりました。ちょうど
先月の風邪シーズンに熱発してからのおつきあい。熱出してハナたらしていて
も、診療所に来ると案外ゲンキで、診察の時もしっかりと口開けて喉見せてく
れる「優秀な」お子様です。

今回は先週の金曜日に、やはり熱発があって咳をして、そして今回は下痢して
いるとお母様が言って来られました。いつものようにやはり見た目はゲンキで
したけど、下痢をするとどうしても少しヘタリます。でもまぁ水分も取れてい
るからと言う事で、風邪薬と整腸剤を持って帰ってもらいました。

ところが今日来られてお母様が言われるには、熱は下がったのに下痢がなかな
か止まらなくて、水分も取るのを嫌がって、でもあまり薬も飲まなくて・・・
と。本人はいつものようにしっかりはしているのですが、たしかにいつもより
元気はなく、舌も乾き気味です。しかも、下痢にまみれているのかほとんど尿
が出ていないと言うのがお母様の一番のご心配事でした。尿が出てないと言う
のはこれは完全に脱水状態ですから、市立病院へ紹介して点滴をしてもらいま
しょうかと提案するのですが、時間はもう昼過ぎ、市立病院では救急外来へ回
されてヘタすると午後の診療まで待たされる可能性もあるので診療所で点滴で
きませんかと言われます。

今日はたまたま小児科経験のS看護婦がデイケア担当していて不在だったので、
そうなると点滴の責任は私に回って来ます。さぁどうしようか・・・(+_+;;)。
ちと悩みましたが、ここまで頼られたらやらざるを得ませんやね。で、数名残
っていた一般外来の患者さんの診療を先にすませ、そしてYちゃんをバスタオ
ルにくるんで・・・とここまで来て、Yちゃん、どうもいつもと違う雰囲気に
気付いたようで(^^;;。

脱水はあってもしっかりしていたのですから、ベッドに寝かされて手だけ出さ
れて押さえこまれたら誰だって怖がりますわね。でそこからがもう修羅場(*_*;;)。
もう手は引っ込めまくるわ、お母さんお母さんと声も枯れんばかりの泣き声で
お母様の方がおろおろされるわで、看護婦3名と私と4名がかり。しかもやは
り脱水と見えてなかなか点滴が入らない。22Gのテフロン製留置針を使用して
頑張るのですが、先端は入ってもしっかり固定して入らず、すぐに膨れて来る
のです。結局は30分ばかりかかってようやく成功し、全部終わったときにはY
ちゃん疲れはてて寝ちゃいました・・・

お母様は、尿が少なかったら明日も来てもいいですかと言われるので、それは
もちろんとは返事したのですが、はたしてYちゃんがおとなしくついて来るか
どうか・・・明日顔見た途端に恐怖思いだして忌避されるんじゃないかと今か
ら心配しております(^^;;;。今日と違う色の服着て行こうかな・・・

<第15話>現代式慢患指導

(2001/5/18)
今夜の御幣島診療所の夜診でのことです。先日病院の日曜検診で診察させてい
ただいた患者さんが2名、結果を聞きに来られました。お二人とも高脂血症が
指摘される事は判っていたのと、お二人とも診療所のご近所だったので、当初
より受診を指示していたのです。

ともに薬剤を使用するほどでなく、食餌療法で当面管理と言う方針になったの
ですが、食事や生活の指導をするためのパンフレットが診療所にありませんで
した。どうしようかなと思ったのですが、たまたまこの二人が待合いでインタ
ーネットの見方を声高に喋っていたのが聞こえていたので「○○さん、インタ
ーネット見れます?」と聞いてみたところ見れると言います。

そこで、先日たまたま見つけていた体脂肪率、内蔵肥満、高脂血症の参考サイ
トの印字ブツを持っていたのでその1ページ目をコピーしてURLを教えて上げ
る事にしました。実際には全部で30ページ近くあるサイトで全部コピーしたら
結構手間だったところですが、自らインターネットアクセスしていただけると
そのへんがこちらもラクだし、自分で一つ一つ開けながら読む事で興味深く読
めて頭にも入るというものです。

これってそのうちもっとこういう状況が普及すれば、指導はここ読んでね、質
問は私のサイトかメールでお願いしますね、てなことになるわけでしょうね。
時代も変わって慢性疾患指導も様変わりするだろうという展望が一瞬見えたひ
とときでした・・・

<第16話>「胸、しまいなはれ」

(2002/5/2)
私のK診療所の方での診察に来られているTばあさまは、そもそもその診療所で
のデイケアに来られていて診察も下りられるようになったものです。老健施設に
入っていたのだけれど、いつまでもあんなとこはいやじゃーと、自ら自宅独居を
選んで帰って来られたのでした。でも、短期記憶障害(いわゆる物忘れ)が激し
く、デイケアに週3回と、それ以外にもほぼ毎日診療所に顔だすことで状態を確
認しているような次第です。

布団も敷きっ放しだし、夏冬関係ないような生活していて、衣服も真冬も今も同
じ薄手のボロ着の十二単です。診察のために腹を脱ぐときも玉葱剥くようなもの
で(^^;)なかなか素肌が見えて来ないのですが・・・

今日は連休の真ん中で明日からまた4連休ということで、普段はあまり予約さん
以外の来ない私の外来も今日は一般で混み合っていました。それを見てか、今日
はTばあさま、診察場に入って来るなり

「今日は混んでるなー。時間かかるから外で脱いで来たわ」

と言っていきなり胸出すのです。看護婦に聞いたら待ち合いで他の目も気にせず
にさっさと脱いでたとの由。本人はともかく周りが目のやり場に困っただろうなー
と思うとちょっとほほえましかったのですけど、診察が終わって、ほなまたなー
と言いながら今度は全く腹も着ずにオッパイ丸出しで出て行こうとするので

「おばあはん、せめて胸だけしまいなはれ」

というと、

「こんなおばあはんのストリップ、誰も見るかい!このまま上(注:デイケアの
事です)あがって踊ってこよかー。上やったら誰かおひねりくれるかもなー」

いやはや(^^;;)おばあはん、相変わらずゲンキですな・・・



<第17話>5年越しの遺言執行

(2002/8/23)
今日の夕方、夜診のためにM診療所に到着し、遅い昼食を摂っていると、診察
場のカーテンがさっと開いて入ってきたのは、高血圧特診に来られているAさ
んです。80歳を超えるのにゲンキでM診療所でのデイケアでボランティアをさ
れているのですが、今日はそのデイケアの日でもないはず。

「あれ?Aさん、どないしたん?」

と聞いてみると、もじもじしながら大きな包みを出されました。中元持ってき
はったんやなーとは思ったのですけど、そのあとの彼の言葉を聞いてちょっと
絶句してしまいました。

「いやぁうちのばーさんがな、死ぬ前にワシに言いよったんや。
おじいさんが
死ぬまでになんとかセンセに1回でもいいからお礼上げてなー
て。せやけど特
診の方じゃセンセ受け取ってくれんやろ。じゃから今日はここにおってはるて
聞いたもんやから・・・」

実はAさんとのおつきあいはもう10年近くになるのですが、もともと奥様と御
二人で一緒に外来に来られていたのです。その奥様が脳卒中で入院され、M診
療所での在宅管理になって亡くなったのが5年前。それ以来Aさんが一人で続
けて外来に来られていたのですが、もともと診療所の方針でそういった贈り物
はいただかないことになっていますのでずっとお断りしてきたのでした。

でも、今日はそういって持ってこられたのが一箱の巨峰。Aさんの、そしてお
ばあさんの気持ちがこもったこの一箱を、しかもこの言葉をうかがった後では
これをむげに断ることは人間としてできません(;_;)。今回だけは有り難
くいただくことにしました。

夜診が終わった後で自宅まで持って帰って、事情も話して一家でこの巨峰をい
ただきました。甘いでしょ〜とおばあさんの懐かしい声が聞こえた気がしまし
た・・・




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