豊中診療所往診こぼれはなし

1997/3/4 おばぁはん、顔焦げてるで

今日は月の第一火曜日ですから、わりと診療所から遠いところを
まわる往診の日なのですが、その手始めはまずは近いところをと
言うことで豊中駅近くのとある小さな工務店の2階に住むCさんの
家に行きます。


工務店と言っても大きなものではなく、1階はいろんな道具やら
がらくたやらの置き場になっていて、2階の4畳半と3畳のところ
におばぁはんが生活しています。電気ストーブが一つあるものの
とても冷え冷えして寒い部屋です。

今日も行ってみると、寒い部屋の中でおばあはんが、そのストーブ
に顔を突っ伏して(!!)寝ていました。おいおい、と揺り起こすと
のそっと顔を起こしたのですが、その顔を見てびっくり(*_*)

「お、おばぁはん、顔焦げとるで」

見ると、おでこやらほっぺたやらが赤黒く色が付いているのです。
あきらかな水疱ではないので、まったくの火傷ではなくいわゆる
「赤外線焼け」の状態だったようなのですが、あのままではその
うち剥皮してくるでしょう。あぶないところでした。

こういう人がいるかと思えば、同じ市内に部屋から玄関まで出て
来るのに3分もかかる家に住んでるばぁさまもいる。豊中とは妙な
ところですわ・・・

1997/4/8   イグアナばぁさま(^^)

今日はイグアナばぁさんのお話。なんのこっちゃ?

・・・

今日のルートは診療所の近所で数軒廻ったあとで、中距離
の豊中市内コースです。6軒目に訪れるのは、ちょうど
府立豊中高校の裏門の前に大きな家を構えるKさんち。
大きな家と言っても、一族郎党が同じ敷地内に住んでるん
ですが、おばぁはんはその一角で小さな離れに一人住まい
です。

耳が遠いものの他は元気な人ですが、脊椎が極度に前彎
していて、背中が突出してるんです。ちょうどイグアナの
ように(^^)。それでイグアナばあさまなのですが、その
名にも恥じずとにかくこの人の生活態度が素晴らしい。

今年91になるはずですが、毎週豊中市立図書館へ通って
は、曽野綾子だの山本周五郎だのを借りてきます。そして
週2−3冊読破しては、必ずノートにその感想と読書メモ
を残しているのです。書くことによって記憶もしっかり
するわけで、これは自ら完全なぼけ防止策になっている
のです。

その他にも、朝必ず新聞に隅からすみまで目を通して
興味を引いた記事には線を引いたり、切り抜いたり・・・
結局このようにただ単に情報を一方的に得る事だけでなく
外へ向けて発信する努力をすれば、ボケは防げるという
典型的な一例なのですね。

今日言って見たらまた新しい単行本が数冊置いてあり
ました。今週もまたKさんは新しい感動をするのでしょう。


1997/4/15 何がそんなに好かったの?

本日のねたは、市立豊中病院の内科から紹介のあった83歳の
女性のことです。もともと心ブロックか何かでペースメーカーを
挿入されていましたが、徐々に動けなくなり、受診もままなら
なくなったということで、家人が内科からの紹介状を持ってうち
の診療所へ往診の依頼に来られたのがもう半年も前の話です。

最初の往診の時はもう悲惨な状態で、完全にベッドに縫い付け
られた状態でした。心臓が悪いからと説明を受けていた家人は
それこそちょっとでも動かしから心不全が悪化するかのような
対応でしたから、それもやむを得なかったのかもしれません。

ただ、最初の時に筋脱力はあるものの筋萎縮がさほどなかった
ので、もしかしたらリハ効果はあるかもと思い、まず採血した
ところが予想通りの低K血症。つまり、利尿剤と寝たきりによる
食思不振が原因だったのです。そこで、1週間ほど無理をして
毎日点滴を施行して、そこを解消する治療を行い、一方では
家人に説明をして、無理に運動させることはないけれど、せめて
毎日ベッド端座位(ベッド脇に足を垂らして座ること)になら
せて自力で座らせることをやってみましょうと話しておいたわけ
です。

こちらとしては、ペースメーカが入っているのだからよほど
のことがない限り心臓が急に止まる事はないし(^^;)むしろ
動かすきっかけを与えてあげる方が在宅で看る方針として
大事だろうと考えての指導だったのですが、本人にとっても
家人にとってもこのことはコロンブスの卵だったようでした。

またリハビリ学的には、ベッドから真上の天井だけ見ている
よりも、自力端座位で視線を水平にしておく方が精神的な改善
が得られるということもありますので、私としてはそこにも
リハの根拠があるとは思っていたのです。

しかしまあこの人ほどこれがぴたっとハマった患者さんはいま
せんでしたねぇ。往診、訪問を始めて2ヶ月目から、家人の
介助量が目に見えて減ってきました。4ヶ月で介助でトイレまで
行けるようになり、今ではなんと自力で端座位になり、トイレ
にも行けるというのです。これは素晴らしい!6月オープンする
新診療所でのデイケアの対象患者さんとして真っ先に名前が挙が
ったのも無理はありません。おそらく最初の状態ならまったく
対象にならなかったでしょう。

こういう患者さんばかりだと、往診もやりがいがありますね(^^)

1997/5/19 Sさんはいつも通りだった

今週はうちの診療所も引っ越しを控え、いろいろばたばた
しています。でも患者さんの体調はそんな事はお構いなしです。

96歳と在宅管理患者の中でも最高齢のSばぁさまが、熱発
してあまり食べられないと連絡があったのが土曜日でした。
昨日も同様であまり食べないからと主任から連絡があって
家で点滴してもらったのですが、今朝は嘔吐もあったとの由で
いよいよあかんかなーと思いながら、午前の診療が終わってすぐ
彼女の家に向かって見ました。

ところが部屋に入って見ると、ばぁさまいつもと全く変わらん
様子で(耳が聞こえないので)自分中心の大きな声で意味不明の
会話をしてくれました。朝から婦長に頼んで先に輸液してもら
ったのが良かったのかなと思ったのですけど、よく見たら点滴
漏れて(^^;)半分も入ってないのです。

超高齢者の体力には驚くべき部分があるとは百も承知していた
はずでしたが、それにしてもこれにはびっくり。かえって入院
でもさせて一気にたくさんの点滴でもした方がよほど心不全に
でもなって予後が悪かったかもしれません。

まぁ決して安心できる状態ではないけれど、逆にいつ頃悪くな
ってしまうなんてことも予言できない状況にあることを家人に
説明し、家人も何かあっても老衰に近いだろうから家で看たい
との希望もあったので、一日一本程度の輸液だけで様子を見る
ことにしました。

私のホンネとしては案外またゲンキになるのではないかなんて
楽観しております・・・

1997/6/11 Sさん、1ヶ月後・・・

ちょうど先月の中頃、往診患者中最高齢96歳のSさんが
調子が悪くなった話を書きました。でも、結構な生命力で、
私は前のMSGの最後に

>私のホンネとしては案外またゲンキになるのではないかなんて
>楽観しております・・・

なんて書いたわけなのですが、あれから約1ヶ月経ちまして
今日は彼女の家に往診へ行く日でした。どうなったかなーと
思いながら部屋に入って見ると、いつもながらの笑顔で手を
上げて迎えてくれるではないですか!

結局あれからは嘔吐もなく、輸液したせいか便通も良くなって
耳もかえってよく聞こえるようになって、結果的に前よりも
ゲンキになってしまったということです。私の楽観がまさに
ぴったり当たったと言うわけですね(^^)

いやしかし96歳、お見事なものです。やっぱり超高齢者は
スーパーマンですね・・・

1997/06/20 Hさんの足はどうなる?

(このエピソード自体は6/18のことです)
いつも往診で診ているHさん、先週はデイケアにも機嫌よく
参加して88歳と言う年齢を感じさせない手さばき
を見せて
くれたのですが、今日、今週のデイケアに迎えに
行こうとする
直前に彼女の家から電話がありました。


なんと昨日廊下で転んで、その後動けなくて今日は熱まで
でているというのです!午前の外来中だったので、主任に
家まで見に行ってもらったら、右の股関節部をちょっと触っ
ても痛がっていると言います。どうもこれは臭い。

いつも往診していただけるのでありがたく思っているご近所の
整形外科の先生に紹介状を書いて診ていただいたら、案の定
骨折の疑いがあるとの由でした。

夕方にこちらの作業も一段落したので、往診に行ってみた
のですが、右足を一定の方向に曲げたまま、動かそうとすると
ひどく痛みを訴えます。このままではこの部屋から動かせない。
だけど・・・入院させて治療方法を検討しても、その入院のために
あるいは、治療のために(下肢の牽引、あるいは手術・・・)安静
を保たさせられることが、彼女の筋力と知性を奪うかもしれ
ないと思うと、簡単に決断できません。

どうしたらいいのだろう・・・


1997/7/8  高齢者たち頑張る

今日の往診は例によって、平均年齢がもっとも高い人達の
コースでした。

あの最高齢のSさん(96歳)は、あれから結局完全に
復活され、なおかつ難聴だった耳も少し良くなって、今日訪問
してみたら絶好調!よくしゃべるし、首だけ上に浮かせて
腹筋は強いし、足の筋力だってなんだか回復しちゃってます。

・・・すげぇ

そして骨折した(らしい)Hさん。あれから3週間、少しは痛みも
軽くなって来て、最近はギャッジベッドを90度まで
上げることが
可能になって来たそうです。で、今日は本格的に
右足の可動域を
チェックしてみました。股関節の屈曲はまだ
大きくは無理ですが、
緩やかに曲げての膝の屈伸運動や、足の
踏みしめは出来そうです。
 それよりも良かったのは、この3週間ベッド上寝たきりだっ
たのにも拘わらず、ほとんどボケが起こってないことでした。
入院させてたら果たしてどうだったでしょうか。

・・・いやぁすげえ

最後はイグアナばあさま(^^)。玄関を開けると「先生、2階へ
どうぞ」とスリッパの上に手紙があります。ご自身は1階の
ベッドであまりクーラーをつけずに過ごしておられるのですけど
我々の事を考えて、2階の部屋をクーラーで冷やしておいてい
てくれたのです。これには感激(;_;)
 テーブルの上をみたら曽野綾子さんの単行本が置いてありました
来週まで借りてまた感想文書くのだそうで・・・

・・・ほんとうにすげぇ・・・

この他に全部で9名、今日の患者さんたちの平均年齢は85歳を
超えていると思います。高齢者コースの往診はいつも感動に
満ち溢れています・・・(^^)

1997/7/16 Hさん,ピンチ!

・・・97/7/15・・・
先日から何かと話題の骨折のHさんですが、この間
徐々にリハビリも進み、ベッド上に起きられる程度に回復
していました。結構安心していたのですが、今朝午前の
診療中に突然家人から電話があり、主任が応対しました。

「先生、なんか手足にチアノーゼがでてけいれん起こして
 るそうなんです。詳しく判らないのでちょっと一っ走り
 行って来ます・・・」

との由。せっかくよくなって来ていたのに何が起こったの
だろうと思いながら、でも今日は昨日の反動で患者さんが
波打ってるもんで身動きがとれず、かなりいらいらしました。

午前診60人が終わって、すぐに彼女の家に行ってみましたら
どうやら褥瘡予防のために入れた尿道バルンカテーテルが
詰まって、尿路感染症から腎盂炎を起こしたあげくの熱発
による悪寒だったようでした。

行ったときには39℃の熱発をしていましたが、すでに発汗
があって全身がじとっとしていたので、無理な下熱をせず
輸液をゆっくりして対処することにしました。診察を開始
したときにはボーっとしてあまり返事もしてくれなかった
のですけど、処置が終わって帰る段になったら、ようやく
生きた目になって声は出さないまでも相づちうってくれた
のでほっとして帰って来ました。

いやしかしまだピンチにはちがいない。Hさん、今夜
乗り切ってくださいねーー

・・・97/7/16・・・

昨日のHさんの話題の続きです。

けさ診療所についたのは午前7時半。いつも市民健診
の結果を判定して98に入力したりする貴重な時間
だったのですが、どうも昨日のHさんが気になって
しようがありませんでした。

そして、到着後10分もしないうちに婦長が登場。

「いま電話があって、朝からまた悪寒があるそうです・・・」

との由。私の予感は当たっていたのでした。

事務長がなかなか来ないので、結局自転車で行くことにして
Hさんの家についたのは8時過ぎ、昨日ほどの状況ではない
ように思えたのですが、今日は輸液を始めて
も脈がなかなか
触れて来ないし、意識も良くなって来ません。


8時45分まで様子を見ましたが変わらず、家人とも相談し
救急車出動を要請して市民病院へ連れて行きました・・・

後から昨日の血液検査が帰ってきたのですが、やはり急性
腎不全,尿路感染症がもっとも考えられる感じで、午後からは
なんとか防ぐことが出来なかったのかを、看護婦さんたちと
カンファレンスで検討したのですけれど、不可抗力に近い
状況ながら、看護婦さんたちの思いはいろいろ出て来るようで
しばし重い雰囲気になってしまったのでした。

家人からの連絡では、今夜が峠だろうとの由。高齢でもあり
乗り越えるのは困難でしょう。しかし、なんとか頑張ってほし
いと思うばかりです・・・

1997/9/9 Sばぁさま 98歳に!

ここでは何度もご登場願っている、往診患者中最高齢のSばぁさま
が、先日98歳の誕生日を迎えました。

今日の往診の際に

「おばーはん、誕生日おめでとー!」

と、声をかけると、目を見開いて、次ににっこりして

「ア・リ・ガ・ト!」

と答えてくれました(^^)。

でも、私が所長に赴任して、最初にSさんのところへ往診に来たとき
は、確か彼女、全くの寝たきりで、あまり
声も出さず、生きてるのか
死んでるのかあまり判らないよう
な存在だったのです。会話が成立
するなんてとんでもない
という状況だったのを憶えています。

それが、この2年半の間に、ご紹介して来たような熱発など
の危機を何度か経験し、その都度点滴などでそれをのりこ
えてきて、乗り越える度にばぁさま、だんだん若くなって
はっきりして来たような気がします(^^;;

この分だと、気がついたら百婆、なんてことになってるかも
しれませんね。さすがだね(^^)


1997/9/24 緊急往診2件

今日は休み明けということで診療所も大繁盛で、60人
以上も午前中に来られたのですが、最後に近くなって緊急
往診の依頼が・・・

実は外来が始まってすぐ、デイケアに来ているYさんが
ベッドから落ちて足を痛がっているという連絡が入り、
午後一番で緊急往診に行く予定になっていたのですが、
こんどはやはり往診管理しているY2ばあさまが、今朝
から息苦しくて動けないとご主人からの連絡だったのです。

どうも状況からするとY2さんの方が重症らしく、先に
そちらへ回ったのですが、案の定左心不全で危機的な状態
でした。もしかしたら無痛性心筋梗塞であったかもしれま
せんが、心電図を取ってる余裕はなさそうでした。速攻で
市民病院へ連絡を取り、救急車に来てもらって同乗して行
き、救急担当医に手渡してまずは一安心となりましたが、
さてどうなることやら・・・

休む間もなく今度はYさんの家に向かいましたが、診察
したところではやはり骨折は避けられない見込で・・・
せっかくデイケア参加者中最高の結果の出ていた人だった
のですが、たった一瞬の不注意で・・・残念です(;_;)

暗い気持ちで診療所へ引き返した2件の緊急往診でした。
Yさん、気落ちしないで!Y2さん、頑張って!と
祈らずにはいられませんね・・・

1997/9/25 Y2さんの続報・・・

午前の診療が終わって、病棟で仕事をしていたら、不意に
昨日の往診の事が頭に浮かびました。ちょうど病棟を退院する
患者さんの事で用事もあったので、診療所に電話をして、主任
に聞いてみたのですが何の連絡もないと。

電話して聞いてみると言うので、一度電話を切って待つこと
数分、もう一度かけて来た主任の声のトーンが落ちていたので
ピンときました。

昨日入院後、夕方から再度状態が悪くなり、18時5分に
亡くなったと言うことでした・・・まだ市立病院から何も
言って来ないので判らないですけど、この早さはやはり
心筋梗塞だったのではないかと思います。

なんとも・・・残念です・・・
合掌