豊中診療所往診こぼれはなし2

<第1話>やはり季節の変わり目は・・・

今日は診療所の定例往診日で、特に今日は最高齢、98歳の

Sさんを含む平均年齢最高齢コースだったんです。

ところがまず3軒目に訪れたTじいさま(85歳)が、
昨日から元気がないと家人の弁あり、聴診してみるとどうも
いつもは聞こえない肺雑音がバリバリしています。熱はない
というも、咳や痰はでるというので、明日診療所へ連れて来
てレ線を撮ることにしました。

大丈夫かいなと思いながら往診を続けていくと、今度は
宮山台という少し高級住宅地に住むCばぁさまが、昨日
から肩で息をしてはぁはぁいっているとの由。これまた聴診
すると、右の下肺野の肺音がよく聞こえません。しかもその
あたり打診するとなんか鈍な音が・・・

これは胸水かもしれないので、明日すぐに刀根山病院へ受診
させてください、紹介状は書きます、といって戻ってきた
のですが、なんというか1日で2人も肺の方で状態が悪化
しているのを見ると、やはりこの急に寒くなった気候が、
なんらかの影響を及ぼしていることは否めないと思います。

超高齢者にとっては厳しい季節の到来と言えましょう

<第1話、補充>
先日往診から刀根山病院へ紹介した89歳のCさんですが
刀根山病院でベッドがないと断られ、結局一昨日うちの病院へ、
そして今日のお昼前にわたしの病棟へ転棟して来ました。

土曜日の午後だったし、救急病棟に3日間もいたのだからと
安心して午後から診に行ったら、なんとまだ胸水がそのまま
放置されてやんの。思わず不条理にもうちの病棟の看護婦さん
に愚痴を垂れてしまいました。

やむを得ず、エコーをしてみたら何と入院時よりも胸水が増えて
います。このままでは呼吸難が悪化するばかりだと判断して、
看護婦の手も足りなかったのですけど婦長に無理を言って、午後
3時から右胸腔にトロッカーカテーテル挿入術(*1)を行いました。
実に私としても6年ぶりくらいの手技でしたけど、無事終了して
胸水が引けはじめたときにはほっとしましたです。

今夜おとなしくしておいてね>Cはん

(*1)長さ20cm太さ7mmほどのシリコンのカテーテルを胸水や
気胸の治療目的で側胸部の肋間から胸腔内に挿入、留置する
ものです

<第2話> 車が入れねーぞ

今日は定期の往診日ではないですが、昨日往診依頼が来た
ものの、定例の往診で忙しく回れなかったところを特別に
回って来ました。

その一つ、Nさんは服部緑地公園近くの長屋に住む89歳の
独居老人ですが、奈良から全く知らない土地へ転居して来て
家に引きこもっているとうちの医療生協の顧問のA元市議
から依頼があったものです。

デイケアもあったので通常の往診車が使えず、いつもより
大きなバンで看護婦さんと共に出かけたのですが、緑地公園
に入り、その街の一画に入って行くと、どうも道が狭い(^^;
地図を調べなからどんどん入っていったら完全に袋小路で
そこから先に進めなくなってしまいました。もう、ちゃんと
した地図作れよ>ワ○ジヤ

やむを得ず、一番近くと思われるところに路上駐車をして
その前に置くことになった家の人には、すんません往診なん
ですと言い訳しながらとことこ歩いてようやく家を捜し当て
ました(^^)

よほど寂しい生活だったと見えてとても喜んでいただけて、
まぁ苦労のしがいもあったと思ったのですが、診察したら
心房細動があって結構悪い状態でした。よく一人暮らしして
るなぁ、て感じ。今後の対応がちょっと難しそうです・・・


<第3話> Tさん、ご決断を・・・

いつもは第2週目の火曜日に定期往診に行くTジイ様
は89歳。かつて胃がんを手術で克服し、その後は自宅で
悠々自適のご隠居生活を送っておられたのですが、年齢と
共に少しずつ弱って来たとの由で往診をはじめてもう4年に
なる方です。

最近になって肺気腫となっていた肺の機能が徐々に低下し、
よく痰を詰まらせるようになりました。特にこの数日は元気が
なく、食事も滞りがちと、昨日訪問した看護婦の報告を受けて
いたので、本日午後のM響社の会社健診のあと臨時往診に行って
きました。

診察してみると案の定左肺の肺音がよくありません。吸気が
入っているのかいないのか、末梢でパリパリいう音だけが聞こ
えます。動脈血酸素飽和度を測定してみると93%しかありません。
寝たきりに近い状態になっているので、喀痰による気管支閉塞
が起こっているのではないかと考えて、背中をタッピング(軽く
叩くこと)してみました。するとしっかりと汚い痰が排出された
のですが、それによって肺音が改善しても、酸素飽和度は悪い
ままです。かえって悪くなったような印象もあって、どうやら
肺気腫が相当進んで来たようです。

これはたぶん在宅酸素療法しかあるまいと思ったのですが、
その導入には入院が必要です。しかし、ジイ様、これまでの
数度の入院生活に懲りていて簡単に同意してくれません。
結局は今晩一晩家族全体で話し合って、明日午前病院で外来を
している私のもとへお返事いただくと云うことで本日は帰って
きました。

気持ちは判りますが、ちょっと意地を張ってる場合じゃない
でしょう。決断してね>Tさん

<第4話>さすがは正月・・・

(1998/1/6)
さて、今日は本年最初の往診日です。今週はあの電気ストーブで
顔を焦がしている「Cばあさま」のところへいく週。彼女の
ところとか、次のKさんとかIさんとかの、アパートあるいは
文化のひと部屋だけの家から、Nさんとこのような玄関にセキュ
リティロックのかかるような高級マンション、はては最後のKさんの
とこのように大邸宅まで、今日は豊中市のあらゆる階層の

家を回る日になってます(^^)

さて、そのCさんのところ。こちらも勝手知ったるなんとやら
で、下で勝手に靴脱いで勝手に階段上がっていきながら「Cさーん、
往診きましたでー」と叫んで部屋に入って行くのが常です。

なにせこのくらいやらないと耳の遠いCさんは居眠りから覚めないのです(^^;;)

部屋に入ると1年中陽の入らない部屋なので、たたみもじとっと
しています。そこに万年床を敷くともう3畳の小さな部屋は一杯
です。着替えが脱ぎ散らかしてあったりもして相当汚いのですが
今日訪れてみると

「お、Cさん、今日は結構きれいにしとるやないの」
「ま、正月やでなぁ・・・」

なーるほど。まだ世間は正月でした。でもこの正月のおかげで
ちよのさんの部屋の畳は年に一度の掃除をして貰えることになっ
たわけです。

1年中正月だったらいいのにね(^^)

<第5話>お寺にも寝たきりはいた

(1998/1/20)
定期往診の日を迎えて、体調完全復帰のどっくです(^^)
あれだけ下痢をして食べるものも少なかったのに、体重が
減らないばかりかかえって増えるという現象に見舞われて
少々クサッております(*_*)ま、それはともかくとして・・・

午前の診察が終わろうとするときに電話があって、市の
保健福祉課のワーカーから1軒の往診依頼。住所をきくと
普段よく目にしているけれどもちろん入ったことも無かった
近所のお寺さんなのですね。

すぐ近所なので、午前診が終わってすぐ婦長と一緒に自転車
ででかけました。お寺の門をくぐって庫裡の方へ行ってみ
ると、門番をしていたお坊さんが案内してくれて中へ。ほど
なく出て来られたのは、依頼のあった患者さんの息子さんで
このお寺のご住職でした。

「こんな仕事してエラソウに言うてますけど、家の年寄りは
持て余しとるんですわ・・・」

と言うその言葉にたがわず、なかなか手ごわいばあさまで
寝たきりで起きはしないものの、脈を取る手をすぐに振りほ
どき、胸部の聴診には胸元を抑え、血圧測定では腕をぎゅっと
曲げてしまって・・・ひと診察するのに大分時間を要しました

3人がかりで身体を押さえてようやく採血できたのですけど
昼飯前だったので結構疲れましたね(^^;;でも、とても外観は
古めかしくて立派なお寺のひと隅に、電動ベッドがおいてあ
って現代を象徴するような寝たきり患者さんがいたことの
この取り合わせが、なんかとても興味深かったです。

帰途は登り坂だったのですけど、そんなこと考えながら走って
たら徐々に疲れが吹き飛んで、絶好調で自転車をとばして
帰って来たのでした・・・

<第6話>3世紀を生きる・・・

(1998/4/14)
たびたびここでも話題の主としてご登場願っている、往診先の
Sばあさまのお話です。今日は彼女をはじめ、85歳以上の
方がずらりと並ぶ「超高齢者コース」の日ですが、みなさん
元気な方々ばかりでいつも驚きの連続になるコースです。

さて、そのコースの一番最初に、全体の平均年齢を大きく引き
上げるSさんがあるわけですが、さすがに最高齢の彼女は
いつもベッドに横たわっての診察になります。でも、そのご機嫌
は日によって結構変わり、先日看護婦が訪問した際にはとても
虫の居所が悪くて「もういらん」「アンタ帰って」と、剣もホロロ
だったといいます。

というわけで、さぁ今日は、とたずねてみると、開口一番

「ようお越し、今日はどんな具合ですか」

と来た(*o*)。まぁ構音障害がありますからはっきりこう聞こ
えたわけではないにしても、たしかにこの様に発言されたのには
驚きました。これを皮切りに今日はもうフツーの患者さんと同じ
ように会話が成立して、介護の娘さんがびっくりされるほどの
調子よさでした。そして最後に

「おばーはん、まだまだゲンキやね、いくつになったんかなぁ」

と聞いてみると、しばらく考えて

「うーん、ごじゅうはっさい(^^)」

なるほど、元気なはずです。気持ちが若い(^^)。実際にはこの
8月がきたら満99歳、つまり19世紀の1899年生まれだったわけ
で、足掛け3世紀を過ごすことになる2001年までは頑張ってもら
おうかねと言って彼女の家を後にしたのでした。

いやー、すごいね(^^)

<第7話>真夏に涼しい話

今日は定例の往診日で、作業場の2階のじめじめした部屋で
一人暮らしているあの「C」ばあさんの家に行く日でした。
先日から腰痛でうなっているとの由で、鎮痛剤などを携えて行っ
たのですが、訪問して診察をし、血圧などを測っていると、急に
ばあさま喋り出しました。それがまた・・・

「先生、昨日爺さんが話し掛けて来ての
「ええっ??」

爺さんと言うのは数年前私の病院で亡くなったご主人のことで
ばあさんの部屋に大きな遺影が掲げてあるのです。

「あの写真の口のヘンが動いての、なんか言うとんじゃわ」
「なんて言ってるの?」
「それがまた聞こえんの。口はたしかに動いててな、目元も
笑っとるんじゃけどね。そろそろ来いちゅうとるんとちゃうかな

言われて改めて遺影を眺めてみると、結構大きな写真でしかも
白黒で、斜め下から微妙な光加減で見ると表情が変わるようにも
見えます。腰痛で眠れないのでよけいに夕方の薄暗くなったときに
錯覚が起こったのだろうと、科学的に説明は付くのですが、でも
寂しく暮らすばあさんが、この薄暗い薄ら寒い部屋に一人で居たら
爺さんが気に病んで出て来てもおかしくないような気もしてしまい
ました(^^;)もうすぐお盆だしね。

くそ暑い日でしたが、少しは涼しくなったひとときでありました・・・

<第8話> Tさん、安らかに・・・

うちの診療所から月の第2火曜日に往診している
「超高齢者グループ」のひとりが、このTさんでした。92歳、
脳梗塞後遺症と肺気腫はありますが
結構元気で、一時落ち
込んでいましたけれど最近はまた
活動性が増して、かえって
夜もあまり寝ないといった
状態が続いていました。

さすがに同室に寝ているおばあさんが参ってしまって
家人が診療所に、なにか眠れる薬はないですかとたずねて
来られたのが1週間前。ベゲタミンBという強い安定剤を
処方したのですが、一昨日電話が看護婦からあって、それ
でも寝ないらしいのですがどうしましょうか、と・・・

本当のところ、これ以上薬剤は使いたくなかったのですが
おばあさんの眠れない方が深刻になって来たからという
家人の訴えに、どうしても寝かせたい状況になるようなら
以前処方したレンドルミンという入眠剤を併用するように
とアドバイスし、結局その夜双方を飲ませたらしいのです。

ところが、昨日、昼を過ぎてもうとうと状態が続いていると
いう連絡があり、ああ、やはりハングオーバーしたか、と
思い、昨日一日様子を見て起きないようなら点滴でも、と
言っていたのです。

そして本日、午前の病院の外来中に診療所から電話があり、
やはりうとうとしているらしいですとの由。やむを得ず
今日の診療担当のパートの先生に往診をお願いしたのです
が、10分もしないうちにもう一度看護婦から電話があって

「今おうちに来てるんですけど、呼吸が止まってるみたい
なんです・・・」

救急隊員が心臓マッサージをしていたらしいのですが、往診
を依頼した医師によればすでに瞳孔が開いているとの由でした。

家人も、そして本人も延命処置をまったく望んでいなかった
ことを良く知っていましたので、その時点で心肺蘇生を止めて
もらい、肺気腫での診断書作成を依頼して電話を切りました。

夕方、診療所で新旧理事の交代慰労会があったので、その前
にとTさんのお宅を伺うと、ちょうどお坊さんがお経を読み終わった
ところ。そおっと顔にかけられた白布を取って
みると、本当に苦しまず、
安楽な表情のTさんが二度と
覚めない眠りに入っておられました。
薬剤の力を借りたとは言え
真に眠りながらの最期で、眠れん眠れん
と言っていた彼にと
っては本望だったのでしょうね・・・

合掌

<第9話> Cさん、干物状態

時折私のこの往診関連エッセイにご登場いただくCばあさん
のところへ、今日も往診の幕開けに訪問しました。
部屋への階段を上りながらいつも「Cさーん」と声をかける
のですが、今日はその階段の途中で、妙に2階がむっとしている事に
気づきました。上がりきってみると、裏の窓は開け放たれている
のですが、まったく風が入らず、しかも天窓があってちょうど真昼
の太陽光線が部屋に注いでいます。どう考えても室温が35℃をくだら
ないと思われるその部屋で、Cさんは畳にタオルケットだけ敷いて
腰巻き一枚でオッパイ丸出しで(^^;)寝ていました。

慌てて声をかけて揺り起こしてみると、「ほぉ〜」とかいいながら
目を覚ましました。でも、こんなサウナ状態なのに汗もかかず、した
がって気温に応じて体温も相当上がってる印象でした。要するに完全
に干物状態だったわけで・・・

まぁ受け答えもしっかりしていて血圧や脈拍も問題なかったので
その場で壁にハンガーを使って簡易の点滴台を作って輸液だけして
おきました。水分補給して汗でもかけばまたいくらか熱も下がるで
しょう。しかしアブナイところでした・・・

8月終わりになってもまだこんな暑さですから、全国でこんな人が
いっぱいいるのでしょうねぇ。高齢者はだいたいあまり水分をとる
のがうまくないですから、アメちゃんのようになっていて、なめて
いたらそれなりに水分が摂れるような固形水分いたいなもんって
できないもんですかね(^^;;


<第10話> 台風の中の往診

久しぶりに関西直撃の台風7号でした。それでも、今朝
家を出る際はまだあまり降っておらず、駅までは何とか傘
なしで行けたのです。豊中についたら若干小振りでしたが
駅から診療所までは30秒ほどですからやはり傘は要りませ
んでした。

ところが、診療前の仕事を終えたころ(8時過ぎ頃)には
すでに外は暗くなって来て、吹き降りが始まっていました。
午前の患者さんは、それでも予約の患者さんを中心にきちん
と来ていただいて、43名は出来すぎです。午前診の終わる頃
には外はもう大嵐でした。

午後1時半、往診へと出かけたのですが、車の中にまで雨が
染みこんで来るほどで、まぁえげつない風と雨(^^;)でした。
まず最初に、あの離れの2階に一人で寝ているCさんの
家に行ってみると、天窓は雨で叩かれていましたが、なんと
か雨漏りはなし。でも、逆に蒸し暑いのか、ばあさま今日も
裸で寝ています。で、腰を冷やして「痛い痛い」と・・・
朝の薬ものんでなくて肺には喘息の雑音がばりばりしていま
した。やばいなぁ。

家人に薬だけは飲ませるようにと依頼して車に戻りましたが
こんな嵐の中で悪くなったら救急車に頼らざるを得ないねと
婦長と話す事でした。

後の3軒は、患者さんには大きな変化はありませんでしたが
外の嵐はいよいよ激しくなり、車から玄関へ行くたった2mを
頭からタオルを被って走るのですが、それでもずぶ濡れに
なってしまいました。でも、行く先々のおうちでは、タオル
やお茶を出していただいてかえっていつもより気を遣って
いただいたような次第で、まぁこんな往診も想い出になって
いいですね。

やれやれ、明日は休みでよかったな