往診こぼれ話(5)

第1話;便利なはずの不便(2003/2/4)

今日は豊中を北から南までかなり広範に廻る往診の日でした。その最後は阪急
庄内駅近くの、これまでもいろんなエピソードでお話に登場してくれたSばあ
さまの所でした。

彼女はすでに80歳を超えましたが、一緒に住もうという娘さんたちの呼びかけ
にも頑固に首を振らず、小さな長屋の一角に一人住まいをしています。しかし
さすがに一人では不用心だということで、家の中のどこにいても聞えるような
大きなチャイムを取り付け、玄関の両開きの引き戸にはその真ん中に鍵をかけ
た上でつっかい棒をするという形に娘さんたちが工夫をされています。

その彼女の所に到達した時にはすでに4時半を回っていました。件の大きな音
のするチャイムを鳴らすと、おばあはんが「はい・はい」と言いながら出てき
て、まずは引き戸のつっかい棒を外し、それから真ん中の鍵を開けようとカチ
ャカチャ・・・いつもならこれですぐ戸が開くのですけど、今日はそれがなか
なか開かないのです。一生懸命開けようと努力しているのはすりガラスの向こ
うからでも見て取れるのですけど、何がそんなに難しいのか一向にらちが明か
ないのです。

なんかこちらも見ていてだんだん不安になってきて、「おばあはん、大丈夫?
家の人呼ぼかー?」なんて声をかけていたらようやくカッチンと音がして戸が
開きました。おばあはんのやれやれという顔でこちらもちょっとほっとして部
屋に入れてもらい、診察にかかりましたが、さすがに興奮していていつもより
30近くも血圧が高かったです(^^;;)。

診察も終わって帰ろうかと言うときに、一体どんな鍵だったんだろうかと思っ
て見てみたら、通常の開き戸によくあるような、回して開けるねじ鍵のような
ものではなくて、単純に上下にスライドするだけで鍵が開け閉めできる単純な
ものだったのです。でもそのスライドのさせ方に結構コツが必要だったみたい
で、おばあはんには昔から慣れ親しんだねじ鍵の方がよほどやりやすかったん
でしょうね。

教訓;自分が便利だと思うものも人には必ずしもそうとは限らない・・・


第2話;相変わらず、というか・・・(2003/2/22)

これまで幾度となく市立T中病院のことは愚痴ってきてはきましたが、今回遭
遇した事態もまた「相変わらず・・・」と思わせるものでした。

話は昨夕、診療所の看護主任からの一本の電話から始まります。昨年秋にT中
病院から紹介され、往診で在宅酸素療法を行っているMさんという方がおられ
るのですが、当診で管理していると言っても後方の受入病院が必要で、それに
関しては往診を始めてからも月に一度は家人が薬を貰いに行っている病院が担
ってくれているはずでした。その彼女が、午後から起こしても起きないのでど
うしたらよいかという電話があったとの報告でした。

もちろんその時点で私は診療所にはいず、パート医師も不在でしたので往診は
無理、しかも状況からは呼吸不全の増悪も考えられたので、入院前提に救急車
を呼んでもらうよう主任には伝言したのですが、しばらくして再度電話があり、
以前こんな状態で連れていったら脱水だけで輸液だけで帰された、今回胸を刺
激したら何とか目を覚ましたので今日はそのまま様子を観る、という家人の応
答だったとの由でした。

在宅酸素療法をしていてその前の対応も納得がいかんなぁと思いつつ、じゃ明
日(つまり今日)往診に行きましょうということで昨日はまとめ、そして今日
往診に行ってきたわけですが・・・まず昨日の「輸液だけして」の話が、市立
病院でなく別の病院だったと言うことが判明したのですが、
それが救急隊から
の要請にも市立病院が満床を理由に門前払いを喰わせた結果だったということ
だったのです。
そもそも在宅酸素療法をやっている限りどんなことがあっても
受け入れるというのが管理病院の義務のはず
なのですけどね。

で、今日の患者の状態を診てみたのですが、今日は昨日よりさらに意識状態は
悪く、胸骨刺激をしても全く覚醒しない「意識レベルIII群」。指先での酸素
飽和度測定でも94%と通常より悪く、絶対入院が必要な状態でした。そこで今
回はせめて門前払いだけは避けようと、看家から市立病院に電話を入れ、紹介
元の医師を呼び出して状況を説明してみると「ああ、それは入院が必要ですね
ー」と。ところが「ただ、
受け入れるかどうかは救急診療部に任されてるので
そっちで相談してもらえませんか
ー」と、信じ難い返答が返ってきたのです。

その後電話が救急部に回されましたが、最初に訳の判らん事務が出て、さんざ
ん事情を説明させられた後、それならもう一度担当の医師に説明してください
と信じられないたらい回し。次に出てきた救急担当の医師がなんとか話の通じ
る医者で、無理してベッドを確保してくれたので、その旨確認して救急隊に連
絡し、ようやく救急搬送できたのですが、そうでなければ完全にキレてたとこ
ろでした。

しかしまぁ、無責任と言うか、あるいはセクト主義なのか、
少なくとも病院が
在宅酸素療法を管理しているという合意があるなら、科を超えてでも入院受け
入れの手続きをとれるはずだ
と思うのですけれど(実際西淀病院ではそのよう
な対応をしておりました)。市立T中病院、相変わらずやなーとため息の出た
一幕でした・・・