「イラク大量殺戮兵器隠蔽に関する米国よりの
           証拠提出」に対する緊急声明

現地時間2月5日、国連安全保障理事会で米国による「イラク大量殺戮兵器隠
蔽に関する証拠提出」が行なわれました。米国はわざわざブッシュ大統領より
3賠信頼度が高いと言われるパウエル国務長官をその説明演説に起用し、いろ
いろなイラストや写真を駆使して、いかに査察からその兵器や兵器の原料・研
究室を隠したかの説明を行なったのです。この「大量殺戮兵器」は特に核兵器
だけを指すものではなく、むしろ炭疽菌やマスタードガスなどの生物兵器・化
学兵器のことでの「証拠」提出が多くされています。そしてそれを元に、イラ
クはこれまでの国連その他の働きかけに対して「嘘ばかりついて」裏切って来
ていると断言しています。

その証拠の中には、みずから「諜報活動」で知り得たことや、イラク高官の無
線連絡を盗聴した記録なども加えられています。どの証拠も米国の立場から言
えばすべて、今すぐにでもイラクを攻撃するに充分なものということに結論付
けられそうです。

ごく客観的にこれらの証拠を検討すれば、米国の主張通りイラクの兵器隠しと
判断される可能性は非常に高いと思います。ただあくまでこれが、イラクに対
して当初より攻撃することを前提としている米国からの提出であることを、国
連としてはやはり客観的に検討する必要があると思います。たとえばスパイ活
動で得られた情報、盗聴で得られた情報などはどこまで信用できるのかと言う
こともあるかと思います。盗聴で得た通話記録などは、それが「真に」イラク
の高官どうしの通信なのかを客観的に証明する手だてはないはずだと思います
し、諜報活動で得た情報だということでの様々なイラストで提示された「兵器
施設」が真実かどうかも判断のしようのないことだと思われるのです。

兵器隠しの問題に加えて、演説の後半ではイラクはテロリズムへの協力、特に
アルカイダとのリンクについての主張がなされています。今世界は、米国のイ
ラク攻撃に関しては否定的な意見が多いけれど、少なくともテロリズムに関し
ては意見は一致していると思われますので、このアルカイダとのリンクに関す
る主張が国連で受け入れられればそれはイラク攻撃への大きな理由になると思
われます。

いずれにしても、この証拠提出で米国はすでにイラク攻撃のための免罪符を得
たと結論して今後の行動を行なうことは明白です。優柔不断な小泉首相も、こ
の証拠提出を受ければ日米安保条約の存在の元では同盟国としての追従を表明
せざるを得ないでしょう。まさにここに至って、中東は完全戦争の「5分前」
に至ったのです。ここでの局地戦争が全世界への危機にならないとは決して言
えません。ここの衝突5分前は、世界規模戦争の5分前とも言えるのです。

以上をふまえて、あくまで医療人としての私たちの立場を示しておきたいと思
います。

医療人としてはどんな理由があろうと「多くの生命を一気に危険
に曝す政策」を容認することはできません。したがってたしかに
イラクがそのようなことをしているとするならばそれは決して許すことは出来
ませんし、なんとかしてその行動を阻止して欲しいとは思います。
しかし、その制裁手段として戦争を行なうことに関しても私たちは
決して容認できません。どんなことはあっても「生命を奪うこと
を合法化する」戦争政策を医療人としては認めることは出来ませ
ん。そのための国連であり、安全保障理事会だと思います。全力を上げて戦争を
回避する方向での平和的解決を模索して欲しいと強く望みます。

最後に、日本としても地球の裏側でのよそのことと無関心でいるわけにはいか
ないと思いますが、この米国の提案に対し、しっかりとした自国の意見を言う
という立場を取れず、同盟国としてしかものが言えないということはやはり日
本として大きな問題だと捉える必要があると思います。そういう観点からはや
はり日米安保条約の存在が大きな障壁になっているのだと認識せざるを得ず、
医療人としてこの条約の存在にも強い疑問を呈したいと思います。

                          2003/2/6
                      豊中診療所所長 中塚比呂志