コミックでない書評のページ

<その1;「スレイブ」>

この「スレイブ」は、いろんな意味で新しい試みをした実験的な
小説です。それは著者自身がそのように書いているのですが、現行
の著作権法にたいする挑戦になっているということ。別に法を破る
と言う内容であるわけではないのですが、本文中の登場人物の言を
借りれば

「手元にパソコンを3台もってる人がそれぞれCDROMの辞書を使いた
 いと思ったら、原則的に同じものを3枚買わなくてはいけない。
 しかし紙に印刷されたものだとどうなってますか?一つの机に一冊
 なんて変な契約はありませんよ!」

これって、コンピュータを触ったことのある人なら、あのソフトの
袋を開けた途端に発生するとされる「使用許諾権契約」に対する疑問
とともに、一度は抱いたことのある疑問ではないでしょうか。これを
はじめとして、情報の「コピー」ということに対するさまざまな思い
を主人公の姿を借りて述べています。この内容はなかなか興味深い点が
多く、特に、人間の脳の中に詰め込まれた情報自体が、遠い祖先から
コピーされて来た情報の積み重ねであること、つまり人間とは情報を
相互コピーする存在なのであると言う考え方は、我々は職業柄よく知
っていることでありながら改めてなるほどと感心してしまいました。

だって、染色体の中で遺伝子がコピーを作っていくからこそ、親子関
係と言うのができるのですからね。コピーなしでは人間は生きていけ
ないわけです。なのに「著作物」だけがコピーに制限があるのは非常
におかしい、というわけですね。著者は著作権問題に関して、やはり
登場人物の口を借りて

「創作者の権利を守りながら、ユーザーも気持ちよく使えるシステム
 こういうのって作れないものですかね」

と言わせています。全く同感でありますね。

また、もう一つこの書で新しい試みであるのは、著者が出版元の
「ポット出版」から印税を貰わず、その分定価に反映させて、読者が
内容が気にいったらドネーションを支払うという、いわゆるシェアウ
エアの形を取っているというところです。これにもちょっと驚きました。
だからといって払わなければどうなるというもんではないですが、
さまざまなSWのお世話になってる私としてはぜひいくらかでも協力
させていただきたいと思っております。

ちなみに、表題の「スレイブ」というのは、こういった考え方を持って
常識に挑戦する人達が作ったOSを搭載した一種のPDAのことです。
なんだかGNUプロジェクトみたいですね。面白くて一気に読めてし
まいましたが、昨年8月出版で、未だ初版本でした。こういう書がもっ
と陽の目を見れないものでしょうかねぇ・・・

「スレイブ・・・パソコン音痴のカメイ課長が電脳作家になる物語」
 畑仲哲雄著 ポット出版 ISBN4-939015-14-9 C0004 \1600
なお、この書物の全文は下記URLからダウンロードできるそうです。
http://ing.alacarte.co.jp/~press/
http://www.pot.co.jp/


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<その2;TVドラマ・ノベライズ2題 >


今日はコミックでない書評を書いてみましょう。それも通常の小説で
はなく、最近話題のTVドラマのノベライズ。つまり、脚本を元にし
て作られた小説です。その2題とは「ケイゾク」と「古畑任三郎」。


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「ケイゾク」は、前にもドラマの方の感想を書いたことがありますが、
私のお気に入り(最近はあのOlympus C2000Zoomのイメージキャラクタ
ーにもなりました(^^))の中谷美紀ちゃんが主役の柴田警部補を演じ
ていたあのドラマです。脚本は西荻弓絵さんですが、澤樹ルイさんと
いう方がノベライズしています。

あのラストシーン(見られた方はご存知ですね)の一種アンフェアな
(^^;)どんでんがえしと、単発モノのハズだったドラマがいつの間に
か長編の続き物になっていたという不思議さにドラマでは結構引きこ
まれてみていましたが、脚本とノベライズが別の方だった弊害がでた
のか、どうも小説版では引きこまれるものがない。これは小説が面白
くないという意味ではないのですが、ドラマの「不思議さ」を表そう
とするあまりか表現の不足した部分が目立ちます。たとえば登場人物
にしても、突然新しい人物が登場し、その人物の説明がまったくなく
て人物像を頭に描くことができません。つまり、ドラマを見た人なら
付いていけるけれど、ドラマの知識がなくて小説としてこれだけを読
んだら、訳が判らなくなってしまうのではないかと思えるのです。


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一方「古畑任三郎」のほうは、脚本と同じ三谷幸喜氏がノベライズし
ています。そのせいもあり、また氏自身があとがきで述べられている
ように、ドラマで発表時にいろいろ専門家やファンから指摘された矛
盾点や、自分でも気に入らなかった点などを補足、加筆していること
から、小説として単品で読んでも充分面白いものになっています。実
はこの小説版が発表されたのは1994年6月。つまりこの当時放送され
ていたドラマに基づいた小説で、見たような気もしますけどほとんど
忘れていました。だけど、読んでいて非常に面白いのです。

しかし、これもあとがきに書いてあるように、あえて三谷氏はこの小
説で古畑の人間をほとんど書いていません。犯人の目から見ただけの
古畑にしています。つまり、ドラマで田村正和氏が演ずる時に一番重
要視したと言う「古畑の生活臭を出さないこと」をさらに推し進めて
いるのですが、このためにこの小説はかえって秀逸な倒叙推理小説集
になっているわけです。むしろTVでは60分ないし120分で謎解きま
でせねばならず、消化不良になりがちなのが推理ドラマですから、ド
ラマより面白い出来になっていると言って過言ではないと思います。
早く今放映分のノベライズも読みたいものですね。

「ケイゾク」西荻弓絵/澤樹ルイ 光進社 1333円(税別)
   ISBN4-87761-026-X C0093 \1333E

「古畑任三郎」三谷幸喜 フジテレビ出版/扶桑社 1262円(税別)
ISBN4-594-01470-4 C0095 \1262E


<その3,「医者のヒラメキ、患者のメーワク」>


表題の本は今回幻冬舎から文庫化された、米山公啓氏のエッセイ集で
す。氏は聖マリアンナ医大の神経内科助教授を投げ打ち、医局から飛
び出したのちエッセイ集を始めいろんな著書で活躍中の医師です。こ
の経歴自体かなり面白い方ですけど、このエッセイ集も大学でやって
いる「研究」のくだらなさ、非実用性を笑い飛ばす形で素人にも判り
やすいように紹介したもので、我々医師が読むとその裏側もいくらか
は判るだけに非常に面白く読みました。

著者が医局の中で「研究コーディネータ」の様な存在で大学院生や医
局員の研究テーマをあれやこれやと考えては提供していくのですが、
彼自身が新しもの好きだっただけに、薬剤会社や検査機器会社などと
つるんでいろんな機械を医局に導入してはデータを集める日々を送る
という生活をしていたそうです。中には後に学会でのスタンダードに
もなったような機械・検査もあったようですけど、多くは消えていっ
たみたいで、まぁそういうものを利用させていただいている臨床医と
しては、開発時代にはいろんな苦労があったのねと感慨深くなります
(^^)。

でもまぁおそらく一般の方が読まれたらまた別の感慨を持たれるだろ
うと思います。それは多分研究とか博士とか言うものの権威のなさ。
研究とはこんなに重箱の隅つつくものなのか、ということを次から次
へと見せられて、読み終わった時には大学病院の医師の見方が変わっ
ているかも知れません(^^;)。まぁそれでも非常に面白く読めますから、
ぜひ一度手に取られればどうかと思います。

ところで、内容に一言。実はペルチェ素子を自律神経の研究のために
指先を冷やす機械として(日本で始めて(?))導入したのも米山先生
のグループらしいのですが、案の定失敗して、その後放置されたらし
いのですね。で、「その後のペルチェ素子」と言うコラムでも後継者
がなく埋もれたままという報告しかないのですが、少しパソコンをい
じれる人になら誰でもCPUの冷却に使用する事が広く知られている
はずです。米山先生自体、医局の中で一番先駆的にパソコンをいじっ
ていたはずなのに、なんでここにコメントがなかったのかなぁなんて
思ってしまいました。

「医者のヒラメキ、患者のメーワク」米山公啓著
 幻冬舎文庫  ISBN4-8772B-750-7 ¥495(税別)



<その4;「ぱそこんのバカヤロオ!」>

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これは先日、東京出張の帰りの新幹線の中で読もうと思ってアキバで購入した本
です。いわゆる初心者のパソコン苦労話なのですが、ありきたりに失敗談をオモ
シロおかしく紹介したものではなく、表紙や挿絵も全てご自分で描かれている画
家としての著者が、もともとは絶対に触りたくもないと思っていたパソコンと如
何に付きあいを始め、そして如何にハマっていくかを、そのエッセイストとして
の才能で書き綴ったとても興味深い本なのです。

この本のいわゆる「腰巻き」には、「田舎に逃げ出したデジタル大嫌い男の山
暮らしと、なぜかパソコン奮闘記!?」という副題が付いています。日大芸術

学部美術科を卒業した著者も若い頃はCM作家をしていたそうですが、綺麗な
星空を見たいがために田舎に移り棲んで、仕事もタクシーの運転手を選びのん
びり山小屋を建てる生活を送っていたとの由。その運転手時代に文章と絵が認
められて徐々にそれが本業になったそうなのですが(ああ、羨ましい経歴だな
や)、その頃に星仲間から最初は星空をCCDカメラで撮影してパソコンでレ
タッチしたものを見せられてそれに感動し、次に描いた絵のパソコンプリント、
アルバイトとしてのCADと次々とパソコンの恩恵に浴し、そしてついにはイ
ンターネット上で自らの絵を展示するまでに至るわけです。

なんだか山の中の一軒家での生活とパソコンデジタルライフてのはとてもミス
マッチに聞こえますけど、たとえばそんなところに棲んでいれば、手紙や電話
のやりとりよりよほど電子メールの方が便利なわけです。また、わざわざ街ま
ででかけてギャラリーを借りて絵を展示するより、スキャナで取り込んでイン
ターネットで展示会をする方がより多くの人に見てもらえて商売にもなるわけ
ですから、考えてみればそういった生活をしている人にこそパソコンやインタ
ーネットというものが必要なのではないかと、まさにそういう感慨をもたせて
くれる本ですね。

それと、もう一つ感動したのは、同じ絵を描かれていても、「僕が目指すのは
権威主義の絵ではない!一般庶民に喜んでもらえる絵なのです」という一節で
す。私は医師ですが、もちろん日常的な勉強を怠るつもりはありませんが、研
究三昧で患者さんの姿の見えない医療よりも、常に患者さんと肌で接すること
のできるプライマリ・ケアを目指し、いつも患者さんの立場にたった医療を、
という立場で診療しています(これは民医連の「綱領」としても掲げてあるも
のです)。それだけに同じ気持ちでお仕事をされておられる著者の言葉に強く
共感するものです。

作者、宮坂繁登さんのHPは
 http://www3.ocn.ne.jp/~peco
にあります。一度ご覧になられてはいかがかと思います。

「ぱそこんのバカヤロオ!」宮坂繁登著 工学図書株式会社発行
 @1999 ISBN4-7692-0407-8 C0055 \1200.(税別1200円)

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