日常診療の中で・・・2
from 1997/9/23

第1話:秋分の日の日直(1997/9/23)

今月は定例の第3日曜日の日直を他の医師に取られてしまった(^^;)
ので、祝日の今日に日直が回って来ました。こう言うときはパート
の医師を頼めないので常勤同志の日直になり、私は外来担当となる
のでした。

今日は余りいい天気ではないのと、9月よりの医療改悪を反映して
か、あまり全体の患者は多くなかったのですが、結構時間のかかる
人が多くてなかなか充実しておりました。なかでも2歳のMちゃん
の入院騒動は今日一日を象徴してました(^^;

他の医師の場合はどうか知らないのですけど、診療所で子供を普通
に診ている関係から私の場合、2歳の子供さんですけどどうします
かと看護婦から相談されても、はいはい、と安請け合いしちゃうの
ですよね。特にうちにかかってる患者さんだと言うので、嘔吐して
るという情報だったですけど、来てもらったわけです。

外来に現れたMちゃんは、何とも言えない表情をして母親にだかれ
ていました。顔色が悪く、母親からも、いつもよりずっと元気のな
いのが不安だと訴えがありました。実際、ベッドに横にしても、普
通ならいやがったり逆にふざけたりしてなかなか子供ってのはじっ
としてないのですが、彼女はじっと診察されるがままに大人しい。

ところがそのまましばらく横にして様子を見ていると、だんだん顔
色が戻って来たかと思うと、きゃきゃと声がではじめ、一緒に来た
兄とじゃれつきはじめたのです。あれ、元気になって来ましたね、
といいつつ、起き上がって母親にまた抱かれた彼女を見ていると、
またすぐに顔色が不良になってぼっとしはじめました。つまり非常
に明らかな起立性低血圧状態だったわけです。

子供ではこの状態は結構珍しいし、わずかに右の手の動きが悪そう
だったので、もしかしたらモヤモヤ病の可能性もあるかと考えて、
小児科の拘束担当医に連絡をして入院の手筈としましたが、採血を
して点滴をつないで、と簡単に書きましたけど、医師も看護婦も
小児科専門でないときのこれは大変なんです。しかも帰って来た検
査結果を見たら、著明な脱水と低血糖があって、どうやら小児科医
の予想した「高ケトン性低血糖」である可能性が濃厚になりました。
まぁたいそうな病気でなくてよかったねと、母親と一緒に胸をなで
下ろしたような次第でしたが、来院からここまでに結局4時間を要
し、みんなして疲れてしまったのでした(^^;;;

さて、明日はまた診療所の外来です。何があるでしょうね・・・

第2話 元気な大病人(1997/11/28)

 今日は青年医師(民医連では卒後6年までの医師を「年齢に関りなく」
青年医師と呼んでいます)が交流集会があるとかでみな出張しちゃった
ので、普段はVF検査が終わればのんびりできるはずの私のところへ
午前後半の救急外来当番がまわってきました。10時半に交代した途端に

「K診療所から徐脈の人が来られてます」

との連絡。行って診療所から持ってきた心電図を見てみるとしっかり
完全房室ブロックでした。胸の音もばりばり鳴っているのであわてて
胸部写真を撮りますとこれがかなりの肺気腫状態。経皮測定動脈血酸素
飽和度も95%まで落ちていたのです。ただの完全房室ブロックだけでも
心筋梗塞に準じて重症管理が必要な上に呼吸不全合併で、さっそく救急
病棟へ交渉してICUを明けてもらいました。

 ここまで書くと、患者さんはもう息もたえだえで相当な重症、てな
イメージですが、実はこの時点で当のじいさま82歳は極めて元気でした。
朝からの状態もきちんと教えてくれ(なんと!いつもの習慣通り朝から
堤防の上を30分間歩いてきたそうです)、私が、入院後すぐするであろう
一時ペースメーカ挿入の説明をしても、時折質問を交えながら一生懸命
聞いてくれ、理解してくれました。いやぁ大したもんですぅ。

だいたい高齢者のペースメーカ挿入、植込みは、やったはいいけどその
あとに痴呆が出たりして、せっかくの処置があだになることが希ならず
あるのですが、まぁこういうじいさまには装着しても値打ちがあると言え
ましょう。

「☆☆さん、ペースメーカ入れたらきっと100まで生きられるよ」
「ほうか、わしは96くらいでエエがのぉ」

なんともグーな(^^)この会話。はりつめた緊張感の中での、妙に
ほのぼのとした一瞬でした。

第3話 ピンコに逢える日(1998/01/31)

H氏は75歳、4ヵ月前の9月中旬に、小脳梗塞をおこして
入院されました。それまでも糖尿、高血圧があり、すでに
何度か脳血栓をされていて、今回入院時は意識レベルも悪く
肺炎も合併して一時危険な状態でもありました。しかし、
輸液や抗凝固剤などで治療し、少し良くなりかけた10月初旬
うちの病棟に転棟して来た翌日にけいれん発作があり、
CTでは右の頭頂に大きな脳塞栓の出現。さすがにこの時は
もうダメかと思われましたが、驚異的な生命力で回復され
現在に至ってます。

しかし、さすがにかなり回復したとは言うものの、車いす
に座るのがやっとで、排尿はカテーテル、日常生活のほと
んどが全面介助と言う状態で、同じ様に糖尿を患う妻には
とても荷が重いのでは、と言う我々の思いから、一時彼女
に老人病院への転院を打診してみました。ところが、普段の
言動からは一にも二もなくその申し出に賛同されるであろ
うと思われた彼女が、案に相違して強硬に老人病院への入
院を拒否されたのです。

「今の部屋は狭いから、引っ越しして、意地をはらずに地
域や公的な援助も受けてでも、あの人はピンコのところ
へ帰してやりたい」

というのが妻の主張でした。ピンコと言うのはH氏が子供
のように可愛がっていた手乗りインコの事なんです。H氏
が入院していなくなったらピンコも血便をだすと言うほど
お互い通じ合ってたということはよく私たちも知っていま
したので、この申し出には少なからず感動させられました。

というわけで引っ越しも含めて1ヵ月間、在宅受け入れの
ための条件造りを、MSWにも手伝って貰って一生懸命整
えて、本日無事退院の日を迎えたのでした。

お昼過ぎ、迎えに来られた妻に退院処方を渡したあと、彼
女自ら彼の乗る車いすを押して一緒に帰って行かれました。
家はすぐ近所とは言え、午後から快晴で本当に良かったです。

来週から当面病院の内科から往診、訪問看護管理をする予定
ですが、老夫婦にとってこれからが大変なのは目に見えて
います。微力ながら我々もその手助けになれば嬉しいのです
が・・・

<続編;ピンコに逢って来ました・・・(1998/2/5)>

上のお話の続編です。
今日はその彼の家への、退院後初の往診をして来ま
した。

午前の外来が終了してすぐに行ったので、家についた
のが13時過ぎ。彼の食事がちょうど終わったところ
でした。彼の座っている後ろに鳥かごがあって、でも
件のピンコは外に出てそのかごの上できょろきょろと
初めて見る訪問者を眺めていました。

でも、そのピンコがどうしても彼のところへ行こうと
しないのです。奥さんの話によれば、どうも車いすが
怖くてよう近づかんのですと。せっかく頑張って帰っ
たのに、ちょっと彼にしたら当てが外れたのでしょう、
なんか寂しそうでした。

でも、インコは鳥かごの上からなら奥さんやヘルパー
さんの声色を真似していろいろしゃべるので、彼の気の
紛らわせには充分なってるとの事でした。

大変な生活ですけど、すべりだしは順調そうで、ちょ
っとほっとして帰って来たのでした・・・

第4話 おばばサロン(1998/2/21)

ここしばらく入院が多くてうちの病棟にも例によって
高齢者が増えて来ました。入院定数からすると男女の入院
数に差はないのですが、男性はひと部屋、ほとんど車いす
にさえ乗ることのできない患者さんの部屋があるのです
けど、女性はどちらかというと自分では動けなくても
車いすには座れて食事も目の前にあれば食べられるという
かたが多いのです。ところがやはり部屋でベッドの上では
あまり食事もすすまず、結局寝てばかりということになる
ので、そういった方々を活気付けるために、うちの病棟の
看護婦さんたちはいろいろ工夫をしております。

まずは廊下会食会(^^)。ベッド上でなく、車いすに座って
廊下にずらりと並んで三食食べるわけです。介助する看護婦
さんの手も少なくて済むので、これはかなり前から行われて
いて、私たちも患者さんの食事状況を見るにはこの時間帯に
廊下に診にいくわけです。

そしてきわめつけは(^^;)詰め所に車いすに座ったおばば
さま方を連れて来て、オヤツなど出しながら座らせておく
「おばばサロン」。午後になると看護婦さんたちはカルテ
記録などせねばならないのですが、彼女たちをベッドに
おいておくと、いろいろとコールがあって記録に集中でき
ないのですよね。でも、こうして詰め所でサロンしてくれ
ると、記録しながらでもお相手ができるわけです。

彼女たちはほとんどが、ちゃんと目は見えるし喋れるけれど
耳が遠いので、その会話を聞いていると、適当に通じる部分
と、全く通じない部分があって、

「足が痛いんですわ(^^)」
「そうでんな、ええ天気でんな(^^)」

てな感じで、もうほのぼのしてしまってサイコーです(^^)
慌ただしい一日の中で、ちょっと一息つける一瞬ですね

第5話 高齢者医療は難しい

今日は病院付属の御幣島診療所での夜診の日でした。
いつになく混んでいて、いつもなら待合室にほとんど
人が居なくなるはずの19時前になっても次から次へと
患者さんがやってきます。8月は患者さんが少ないので
困るわけですからまぁ嬉しい悲鳴なわけですが、そう
しているところへ、普段は所長が往診している在宅高齢
患者さんのご家族から電話がありました。

「先生、Mさん、なんだかはぁはぁ言って苦しがって
るそうで、家族から往診依頼なんですが・・・」

しかし行きたくてもカルテはまだ山積みです。そこで
残業していた検査技師さんに行ってもらい、血圧と
TcPO2(経皮動脈酸素飽和度)測定をやってきてもらう
ことにしました。数分後、戻って来た彼女の言うには

「血圧は触診で100。37.8℃熱発してます。それで
TcPO2が89%なんです・・・」

TcPO2は正常で98-99%、悪くても96%は欲しいところで
いくら高齢者でも89%は悪い。熱発も考えたら肺炎の
可能性だってあります。そこでついて来られた家人に
救急車で病院へ行ってほしい旨看護婦から伝えてもら
った(その時点でカルテはまだ5冊は積んでました)
のですが、なんだか渋っておられるという。で、待ち
合いの患者さんに待っていただいて家人に診察場へ
入ってもらったところ

「前にもあんな状態で病院へ行ったら、点滴2本くら
いしただけで元気になって、そこら中歩き回るちゅうて
呼び出されて困ったんですわ。今回もそんなんちゃい
ますんか」

とおっしゃるわけです。高齢者には入院の環境変化で
痴呆が出てそのような事態になることは確かに良くある
ことなので、家人の言われる気持ちも判るのですが、
だからといって今回もそうだとは決して言えないし、
状況からは肺炎であってもおかしくないわけで、在宅
管理としてはこうするしかないと判断しました(癌末
期で家人も急変してもそのまま見ると言う同意でもあ
れば別ですが)。

愚痴を言うわけではありませんが、あまり家人が熱心で
ないのかなと考えて在宅で引っ張りすぎると、ぎりぎり
まで悪くなって入院させたときに「なんでもっと早く」
と言われてしまうこともよくあることなんです。今回も
もし家人の言い分を入れて一晩おいたとして、そしたら
悪くなって助からなかったという事態になったとしら、
家人としてはやはり、なんでそんなに悪いのなら病院へ
送ってくれなかったのだと文句を言われることでしょう。

高齢者の病態と言うのは簡単に変わりやすいので、こう
言うときは最悪を考えて我々は行動せざるを得ません。
高齢患者さんを抱えるご家族の皆さんにはぜひご理解いた
だきたいと思います・・・

第6話 女性に手を握られるとき・・・(^^)

今朝、久々に病棟へ行ってみたら、朝っぱらから看護婦が
痴呆で入院しているFばぁさまを車いすに乗せてうろうろして
います。どうしたのと聞いたら、ベッドから落ちて
頭を怪我した
との由で、当直医の指示でレ線を撮りに行くと
ころだったとか。

幸い怪我は浅く、頭蓋内出血には到りませんでしたが、実は
今日はばあさまのご家族が来られて、ばあさま連れて水間と
いうところにある施設まで面接に行く予定だったのです。
でもこんなことがあったからと言うことで、とりあえず本日は
中止になりました。

さて、午後になって、外来を終えた私が詰め所へ上がって行くと、
ばあさまは例によって詰め所で車いすで過ごしていたのですが、
私を見るなり「ちょっと、ちょっと」と呼びます。なになにと
近寄ってみると、急に私の右手の手首あたりを両手で握り締めて

「どっこも行きたない、家へ帰る、家へ帰る・・・」

といいながら離そうとしてくれないのです。いろいろ説得して
何だかだと話をするのですが、話は聞いてくれるものの手は離し
ません。離したら最後自分がどこかへ飛ばされて行くと思って
いるかのように、しがみついているのです。

今日面接に行くに当たって、家人がばあさまにどんな話をした
のかはよくわからないのですけど、遠くの施設へ追いやられる
という事はしっかり伝わっていたようですね。といって、こう
いった患者さんを長期間おいておけるほどの余裕はうちの病院
にはありません。

この10月から医療制度がまた少し改悪されて、一般病院の平均
在院日数が25日を超えたら、これまで認可されていた看護基準
ができなくなり、看護点数も大幅に下げられてしまうことに
なっています。この制度により、いわゆる「療養型病床群」
でない一般病院では、3ヵ月以上の長期患者をおいておくと間違い
なく赤字になるわけで、当然ここで患者追い出しが始まるわけ
です。

私の病院では決して全く事情も考慮せず3ヵ月で追い出すなどと
いうことはしてませんし、転院先を探す場合も家人と相談して
なるべく患者、家族の為になるような方向で、を基本としてき
ました。それでも結局こういうことをやらざるを得ない事情な
のです。ふねばあさまの気持ちが握られた手から伝わって来て
力づくで振り払うことができず本当にはがゆい思いでした。

女性に手を握られるのも、こういう時ばかりはフクザツですね

第7話 妻だけに看取られて・・・

→(鎮魂歌へ転載)